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改正派遣法施行。改正ポイントを前向きに理解すると、

9月30日より、改正労働者派遣法が施行された。

派遣は、もともと「テンポラリー」=一時的な雇用形態として日本への上陸は40年ほど前にさかのぼる。黎明期には、テンポラリーという言葉が派遣会社の社名にもよく使われていた。業務多忙のヘルプ、急な欠員に対応できる(欠員が充足するまでの間)、などがメリットとしてうたわれた(今もメリットとしてうたわれている)。

1986年にはじめての派遣法が施行され、何度かの改正がほどこされてきた。派遣のあり方が時代とともに移り変わっていったのを派遣法改正の歴史でみてとれる。

かつては、アルバイトよりも時給がよい、すぐに仕事を紹介してもらえる、嫌だったら派遣先を変えられる、というのが派遣を選ぶ人にとっての派遣の魅力だった。”つなぎ”には時間的な”つなぎ”と未経験だがやりたい仕事の経験を積むためのキャリアの”つなぎ”とがあり、なんとかやりたい仕事に足を踏み入れるための一手段であった。

企業にとっては一時的欠員補充、正社員をあてるほどでないポジションであれば正社員の代わりとして、労働者側としては正社員の職がきまるまでの、”つなぎ”として、双方にとって塩梅のよいしくみが派遣だった。

当然、英文経理や貿易事務、金融業務など特定スキルで活躍する派遣社員もいたが日本の職場は、職能、職域を限定しない総合職採用が一般的で、派遣社員募集時に適格なジョブスクリプトを提示できなかったり、専門職として派遣社員を雇用する土壌が会社側にないためのミスマッチもあった。専門職として派遣されたのに、お茶くみがあったり、電話受けがあったり、一般事務的な業務が含まれてしまうなど。

中小企業の一部には、自前で人材を採用できない、いい人材を採用できないといった課題を抱える企業もあり、派遣会社からスキルのある人材を紹介してもらうことが採用の一形態となっていった(自前で採用ができないということは企業になんらかの欠陥があったりするケースも多々あり派遣社員が長続きしなかったりする)。

企業、労働者ともいい塩梅で双方メリットを感じられた時代もつかのま、バブル崩壊リーマンショックなど長期の景気悪化で企業はリストラクチャリング選択と集中を迫られた。正社員の業務領域と非正規社員の業務領域を明確に分け、年功序列、終身雇用から能力主義に移行していった。選択と集中で内部で注力する業務、社外に業務委託する業務を選別をし、コスト削減を進めた。

派遣が雇用の調整弁といわれるようになり、失業率の上昇により、派遣(非正規雇用)がだめだ、という風潮になっていった。あまりに急ぎ足だが、今回の派遣法の改正は、このような経緯がある。

内容としてはごもっとも。長期で派遣社員を活用しているポジションは、常用とみなせるから、直接雇用しなさい。同一業務同一賃金に基づき、雇用形態で賃金格差をつけないように、ということだろう。

今回の派遣法改正は派遣切り、雇い止めをくいとめる一定の効果はあるだろう。また、派遣社員の待遇向上につながるだろう。

派遣から正社員への道筋をつけることを派遣先に要求し、派遣でも能力開発機会を提供すること(理解としては、労働人口は減っていて数は限られているから、派遣会社同士で獲得競争をやってもコストばっかりかかるんだから、育成に力をいれて、フロー型の人材供給システムからストック型の供給システムに移行しなさい、と。人材の教育には多少コストがかかるかもしれないが、そうすることで増えすぎた派遣会社はますます淘汰され、経営基盤のしっかりした会社が生き残れるようにしよう、といったところか)で派遣社員の雇用機会を拡大することが求められている。

 

 派遣法の適正化はこれで終わりではない、と考える。実態の後追いの法改正では、すぐに法律が古くなる。今回の法改正は雇用の安定という角度からの改正であった。ところがここ最近では、育児や介護等でフルタイムの勤務が不可能な人たちの職場復帰、高齢者の就職機会になるような短時間勤務、ワークシェアリングの推進につながるような政策が求められているような気がする。病気や精神的な病から職場復帰を目指す人たちにも目を向けたい。

 

派遣会社は差別化がしにくく、料金つまり時給設定の競争になりがちだ。派遣社員の教育、育成が求められるようになると本来のスタッフの質で派遣会社間の競争ができるようになり、社会的に見ても良い方向性だと感じられる。逆に考えると、このことは大きな新規参入障壁になり、優良な業者が残っていける仕組みだ。

派遣会社が派遣社員を教育・育成し、定期的に職場を移動する仕組みが有効にはたらけば、新しい就職のシステムができるわけだし、なんらかの事情で職場を離れる期間があったとしても、離職前の職歴を担保に仕事を再開できるシステムとして有用になるだろう。

 

3年ごとに仕事が見つかるかどうか、と疑問視されているようだが、どちらにしても、3年間継続して就職しつづける人もすくなかろう、3年先の企業の将来性は誰にもわからないわけだから(3年後に引き続き雇用されたい会社でないかもしれない)、ここは割り切って3年でステップアップすると考えたほうが身のためだ。

要は、企業、労働者とも3年で一定の成果があがる仕事をすることだ。政令業務がなくなることで逆に、仕事の幅も広がり、能力開発機会につなげられう可能性もある(仕事の範囲を制限したい人には不運だが)。企業としては、改めて日本の仕事の考え方を踏襲していくよい機会ではないか。

短期間の契約については、今回の法改正はなんら影響はない。弱者救済の観点からいえば、派遣会社が教育へのシフトが有効に機能することにかかっている。